2022.07.20
  • コラム

「相次ぐ値上げ、資産防衛のために取るべき対策とは?」

日本で生活する多くの人が野菜や肉などの食材、ガソリン、不動産などの相次ぐ値上げを肌で体感しているのでは無いでしょうか?

世に言う「インフレ」は確実に我々の実生活に影響を及ぼし、相対的に今手元にある円の価値を下げてしまうため気付かぬうちに資産は目減りしてしまっているのです。

基本的に円という通貨で収入を得ているほとんど全ての日本人にとって、いよいよ無視できない問題となってきました。

そこで本書では、なぜ今日本で相次ぐ値上げが起きているのか、その上で我々が取るべき行動についてわかりやすく解説します。

 

そもそもインフレやデフレって?

 

インフレはインフレーションの略語で、継続的に物価が上昇していく状態です。

自動販売機の飲料はインフレによって80円から120円にまで上がっています。

 

デフレーション(以下、デフレ)は、継続的に物価が下落していく状態です。

ある牛丼屋の販売価格は1990年に1杯400円でしたが、デフレによって2001年には280円まで下落しました。

 

では、インフレやデフレは我々の経済活動にどう影響を及ぼすのでしょうか?

緩やかなインフレが起こると物価が上昇し、モノを売る企業の利益は上昇し従業員の賃金も上がります。

賃金が上がれば購買意欲が増し、さらにモノが売れるため物価も上がっていきます。

このように、緩やかなインフレは好景気とリンクしています。

 

逆にデフレの場合、物価が下落していくため企業の利益は低下し、従業員の賃金も下がります。

賃金が下がれば購買意欲は低下してモノが売れなくなるため、企業はさらに値下げが必要となります。

先ほどの牛丼の例がまさにこれで、いわゆるデフレスパイラルと呼び、不景気とリンクしています。

 

しかし、インフレの中でも急速なインフレは注意が必要です。

あまりにも急速に物価だけが上昇してしまうと、実体経済が伴わず賃金の上昇が追いつかないため、結果的に消費活動が停滞し景気が悪化してしまうのです。

この状況は経済停滞(スタグネーション)という言葉とインフレーションを掛け合わせてスタグフレーションと呼び、景気を伴わないため賃金を上げられない状況なのです。

 

日本におけるインフレとデフレの歴史

 

図1は1960年頃から現在に至るまでの日本のインフレ率を表したグラフです。

図1)

出典:世界経済のネタ帳

1954年から高度経済成長期に入り、今では当たり前に存在する高速道路や鉄道などの建築によって多くの雇用を生み、年4-6%ほどの緩やかなインフレが続きました。

 

しかし1970年代、中東情勢の悪化によるオイルショックによって石油価格が異常に高騰し、スタグフレーションが引き起こります。

当時のインフレ率は約25%、1年で円資産が3/4に目減りしたことになります。

 

オイルショックが落ち着いた1980年代、不動産によるバブル景気で1989年まで年2-3%のインフレが継続しましたが、物価上昇にブレーキをかけるために政府が金利を引き上げた結果、バブルは崩壊しました。

 

例えば自動車のローン金利が上がれば消費者は購入を控えるため、モノは売れなくなり価格は低下します。

つまり、加熱した物価高騰に対する金利の引き上げはクールダウンさせるブレーキ的な役割を果たします。

 

これをきっかけに1990年代は一転してデフレスパイラルに陥ります。

かつての高度経済成長期には製造業を中心に世界に輸出していた日本ですが、2010年代にはスマートフォンやアプリの開発において米中に大きく後れを取り、いわゆる「失われた20年」を過ごします。

 

デフレからの脱却を目指した金融緩和

 

長年のデフレスパイラルからの脱却を目指し、日銀の黒田総裁はインフレ率2%の目標を打ち立て多くの金融緩和策を実施してきました。

2013年には国債の買い入れを実施し、国債を買い取ることで国内に大量の現金をばら撒き、相対的にお金の価値を下げることでインフレを引き起こそうとしました。

 

他にも経済を活性化させるために、企業や消費者がお金を借りやすくなるように金利も引き下げました。

しかし、同タイミングでの消費増税による経済の低迷や、そもそも経済を活性化させるようなイノベーティブな産業を作り出せなかったためにインフレ率2%は達成できず、2016年には金利を下げに下げた結果、マイナス金利政策を実施します。

 

マイナス金利政策によって、民間の金融機関が日銀にお金を預けると利息をもらうどころか利子を支払わないといけなくなるため、日銀に預けず企業や消費者にお金を貸し付けることで、無理やり経済を活性化させようとしたのです。

 

しかし、これらの金融緩和策を実施してもインフレ率は2%に届かなかったのが日本の現状です。

 

なぜ今になって急速なインフレを迎えたのか?

 

長年インフレ率を上げられなかった日本ですが、なぜ今になって急速なインフレを迎えたのでしょうか?

 

2019年以降、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、消費活動や経済は世界的に停滞していました。

その間、世界中で企業や個人に大量の現金給付を行い、各国でお金が溢れて価値が相対的に下がっていたのです。

しかし、2021年頃から欧米を中心に経済活動が徐々に回復し始め、人が消費活動を再開するにあたり、モノに対する需要が高まり世界的にインフレが引き起こったのです。

 

さらにここ数年、脱炭素社会を目指して石油原産国は生産量を減らすように動いていましたが、アフターコロナに伴う経済活動の再開は石油の需要を増加させ、石油価格が一気に高騰したのです。

 

さらに追い討ちをかけるようにウクライナとロシアの戦争が始まり、ロシアの原油、ウクライナの小麦や木材などは世界的に供給が不足し、結果的に価格が高騰しました。

 

コロナ後の日本と世界の違い

図2はアメリカと日本のインフレ率を表しており、現状アメリカは日本よりもインフレが進んでいますが、アメリカと日本では圧倒的に状況が違います。

図2)

出典:世界経済のネタ帳

アメリカのインフレはコロナからの経済回復によってモノに対する需要が増したことが背景にあり、中央銀行は対策として金利を引き上げたのです。

前述したように、金利引き上げは消費活動を抑制し、モノの価格を下げることができますが、その反面で経済の停滞にもつながります。

金利の引き上げは、実体経済が上向いてきた欧米だからこそ可能だったのです。

 

それに対し高齢者の多い日本はコロナからの経済回復が遅れ、金利を上げることが出来ないのです。

さらに、アメリカよりも資源が少なく輸入製品が多い日本にとって、石油や木材の高騰は生活のありとあらゆるモノの値段を高騰させてしまうのです。

 

その結果、今日本では実体経済が伴わず単純に原材料費や輸送料によってモノの価格が高騰し、オイルショック以来のスタグフレーションが起きています。

 

アメリカのように金利を上げれば経済が破綻し、このまま金利を下げればインフレは止められない。

日本政府は今答えのない二択を求められているのです。

 

では、このような状況で我々が手持ちの資産を守るためにどう行動すべきなのでしょうか?

 

我々が行うべきインフレ対策とは?

 

・外貨を持つ

インフレが起これば相対的に円の価値は下落するため、円以外の通貨を持つことがインフレ対策になります。

特に世界の基軸通貨であるドルを持てば、仮に円安に傾いてもドル高の恩恵を受けることができるため資産を守ることが出来ます。

 

・株式の長期積立分散投資

毎年1-2%程度のインフレ率に対し、円の預金金利は0.001%でありインフレに勝てません。

そこで、年平均4-5%程度のリターンが見込める株式はインフレに強い資産の1つです。

ドル建てで株式投資を行えば、①と同時にインフレ対策が行えます。

 

・不動産やGoldなどの現物資産を持つ

不動産やGoldなどの現物資産はインフレに強い金融資産です。

地球に存在するGoldの総量は23万トン、わずかプール3杯分しかありません。

金融緩和でいくらでも発行できる通貨と違い、Goldは有限資産であるためインフレ時に価値が下がりにくい傾向にあります。

 

不動産はインフレによって土地や木材などの建築材料費まで価格が上昇するため、インフレに強い資産と言われています。

また、物価の上昇とともに家賃も上がる傾向にあります。

さらに不動産購入時のローンは通貨の価値が下がることで実質目減りするため、インフレ時に有利に働きます。

 

 

まとめ

本書では今日本を襲うインフレ、特にスタグフレーションについて解説しました。

未来を予測することは出来ませんが、円資産以外の資産を持つことはインフレ対策だけでなく資産形成の意味でも非常に重要です。

 

これからも日本人として日本で生活する上でインフレとどう向き合っていくべきか、本書がその一助となれば幸いです。