- コラム
【現役医師監修】医師のセカンドキャリアと老後資金の作り方
1169万円。
これは2019年に厚生労働省から発表された医師の平均年収です。
現在の日本の平均年収は、働き方にもよりますが400-500万円程度ですので、数字だけ見れば世間一般の「医師=高収入」と言うイメージは決して間違いではありません。
しかし、批判を恐れずにあえて言えば医師こそ老後に不安を感じるべきです。
実際に医師である筆者も老後に不安を感じながら働いていますし、おそらく医師として働く皆さんも同じように自分のセカンドキャリアや老後に不安を感じながら働いているのではないでしょうか。
医師は仕事の特性上、患者の命を救うことが至上命題として課されていますが、自分や家族の生活を守らなくてはいけないことを忘れてはいけません。
そこで本書では、医師が歩むべきセカンドキャリアや適切な老後資金について紹介していきます。
本書を読むことで、医師の皆さんがセカンドキャリアを選択する際の一助となれば幸いです。
医師こそ老後が不安だと言い切る3つの理由
医師の仕事は人命に関わることができる尊さはあるかもしれませんが、特に勤務医の場合、長い労働時間、夜間勤務、緊急の呼び出し、土日祝日の仕事、研究や論文、勉強会やカンファレンスなど多くの業務をこなしています。
これらの多大なる労働の結果、平均より多くの給与をもらっているに過ぎません。
冒頭で述べたように数字だけ見れば医師が高収入であることに間違いはありませんが、ではなぜ医師こそ老後に備えるべきだと言いきるのか、その理由を解説します。
・重い税金
所得税は超過累進税率によって定められており、給与所得が高くても最大55%課税されてしまうため、思ったより手元に残るお金は少なくなります。
日本での労働において幸福度が最も高いのは年収800万円であると言われ、それ以上の収入は稼ぎ出す労力に見合わず、さらに税金もかかるため幸福度が低下すると言われています。
医師の平均収入は1000万円以上ですから、まさに幸福度が上がらない労働を強いられている状況と言えます。
・浪費傾向
医師のように年収が中途半端に高い場合、日常生活における浪費が多くなる傾向にあります。
無駄に高い家賃、高級車、ブランド品などの贅沢品をついつい買ってしまう、そんな医師も少なくありません。
日々いくら使ったのか出納帳をつけ、スーパーのセールに着目しているような医師はほとんど見たことがありません。
労働に対する自分へのご褒美は必要ですが、浪費は極力避けるべきです。
・金融リテラシーが低い
医師の場合、仕事をしながらも医学の勉強を続けなくてはならないため多忙であり、業務内容も金融知識をほとんど使わないため、結果として金融の知識を身につける機会が少ないです。
医学用語を説明できても円安やインフレを説明できない医者は少なくありません。
中途半端な高収入が悪く影響して、本気で金融知識を身につけようと行動する医師は少ないのです。
金融の知識がなければ、働いて手に入れた大切なお金を守り、有効に使うことはできません。
これらの理由から、高収入である医師こそ老後に備えるべきなのです。
安心できる老後資金とは?
安心できる老後資金を考える上では、労働を辞めてから死ぬまでの間にどれほどのお金を使うのか事前に予測しなくてはなりません。
一般的に言えば、まともな老後生活を送るには月38万円が必要と言われていますが、余裕を持って月45万円が必要だとします。
年金を月20万円受け取り、65歳から死ぬまでの約30年間を生活すると仮定すると、(45-20)万円×12ヶ月×30年=9000万円が必要になります。
年金支給額が下がったり、思ったより長生きしたり、想定外の出費(医療費など)を想定すると、1億円ほどを65歳までに用意する必要があるのです。
上記はあくまで概算であり、子供や孫はいるのか、旅行や趣味などの贅沢にどれほどお金を使うのか、何歳まで生きるのか、賃貸なのか持ち家なのか、それぞれの価値観や状況によって適切な老後資金は大きく変わってきます。
だからこそ、働けるうちに自分の老後資金をどう確保するのか意識する必要があり、それによってはセカンドキャリアの選択も変わってきます。
老後資金の作り方とセカンドキャリアを考える
どんな未来を得たいのか、どんな老後を暮らしたいのか、今の年齢や収入次第でも備えるべき老後資金は変わってきますが、ここでは一般的な勤務医にオススメの老後資金の作り方を紹介します。
・節約
中途半端にお金に余裕がある人ほど案外節約が苦手です。
例えば、月1万円飲食費を抑えるだけでも30年続ければ360万円です。
贅沢品である車や家賃の見直し、無駄な保険やサブスクリプションの解約など、できることはたくさんあります。
労働で年収を上げるのは時間と手間がかかりますが、節約は簡単で効果的に資産を増やすことができます。
・転職
医師にとっての転職は、転科と職場移動の2つの選択肢があります。
転科の場合診療科を変えるという意味で、職場移動の場合診療科は変えずに職場だけを変えるという意味です。
同じ病院で働く医師であっても診療科によって労働時間や給与は違います。
労働時間に余裕があればバイトや副業も可能ですし、給与そのものが違えば老後資金にも余裕が出てきます。
また転科にハードルを感じるのであれば、職場移動も1つの手段です。
忙しい急性期病院から、ゆっくりと働ける慢性期病院や緊急手術の少ない病院に移動するだけでも労働環境はかなり変わりますし、待遇も施設によってそれぞれです。
高齢な医師であれば介護老人保健施設の施設長になって、自身のペースでゆっくりと働くことも選択肢の1つです。
現状の労働環境では望むような老後を送れないと考える場合、転職はいい選択肢になります。
・開業
医師がセカンドキャリアを考える上で開業は外せない選択肢です。
クリニックを開業すれば立派な事業主であり、働き方も自分で決定できる上に経営手腕次第では高い収入も見込めます。
税務上も給与所得より有利なため、成功した時のメリットは非常に大きいです。
しかし休みが取りにくく、周囲の医療施設との連携も求められるためデメリットも存在します。
・投資信託などの株式投資
次にオススメなのは株式投資です。
経済学者トマ・ピケティは、過去の膨大なデータから労働を年利換算すると約1%であると結論付けました。
平均して年5-8%程度のリターンが期待できる株式投資と比較すると、労働だけで十分な老後資金を得るには限界があるということがよく分かります。
株式投資にはいくつもの投資方法がありますが、医師の資産形成に向いているのは長期積立分散投資です。
どんな金融資産にどれくらいの金額を回すかでリスクやリターンは様々ですが、基本的に多くの銘柄に分散して長期に積立投資することでリスクを下げることができます。
最近よく耳にするiDeCoや積立NISAも長期積立分散投資の1つです。
前の章で計算した老後資金9000万円を例に、現金のみで用意した場合と株式の長期積立分散投資で用意した場合を比較してみましょう。
日本の場合は毎年1%程度のインフレが起きていて、インフレが進めば物価が上昇し、相対的に貯めてきたお金の価値も徐々に低下していきます。
そこで、仮に年間4%ずつ消費しインフレ率を1%とすると、現金のみで用意した場合は預金金利0.001%-消費4%-インフレ率1%≒-5%ずつ減っていき20年で枯渇する事になります。
しかし株式投資では低く見積もっても年平均5%程度のリターンが期待できるため、5%-消費4%-インフレ率1%=0%となり、理論上は年間4%ずつ消費しても元金が減らない事になります。
さらに高収入かつ低浪費であれば月々投資に回せる元手も大きくなるため、より効率的に資産を増やすことが可能です。
・不動産投資
いわゆる区分マンション投資は比較的参入障壁が低く、給与所得が高い方にとっては節税効果があります。
しかし自分の給与所得が下がった場合は節税効果が薄れてしまいます。
少なくとも10年以上働く可能性が高く、かつ貯金がそこまで多くない30-40代の若手医師にはオススメの投資法です。
逆に、資産性の高い物件や一棟物投資は、いわゆる大家さんです。
節税効果はありませんが、家賃収入が得られるため医師の給与所得が減った時に家計の支えになります。
今後労働の負荷を減らしたいと考えている医師にとっては検討すべき投資法ですが、投資規模が大きく、ある程度の現金が必要であり参入障壁は高い投資と言えます。
どちらにせよ医師の場合、不動産投資は銀行からの融資が低金利で受けやすいため有利な投資です。
まとめ
老後どのような人生を歩みたいかによって、医師としてのセカンドキャリアの選び方も十人十色です。
老後になってからでは働くことが難しくなるため、働けるうちにどんな選択肢が用意されているのかを自分でよく考えて選択する必要があります。
本書で示した節約や投資、転職などの選択肢を個人に見合った形で組み合わせ、スモールスケールからでも行動を起こすことが何よりも大切です。